これからの法改正の動き
2019年の改正後、国内外の情勢変化等も踏まえて、新たな会社法制の見直し作業が進んでいます。
その一環として、2024年9月から経済産業省や法務省が参加して論点整理を行なってきた、公益社団法人商事法務研究会の会社法制研究会が、報告書を公表しました。
研究会が検討してきたのは、以下のテーマ等です。
・ 従業員等に対する株式の無償交付
・ 株式交付制度の見直し
・ 現物出資規制の見直し
・ バーチャル株主総会およびバーチャル社債権者集会
・ 実質株主確認制度
・ 株主総会の在り方に関連する見直し(事前の議決権の行使によって株主総会の決議があったものとみなす制度の創設など)
ここで注目されるのが、バーチャル株主総会等についての検討です。
現行の会社法では、株主総会を招集するにあたってはその「場所」を定める必要があるとされています。
そのため、通常の出席を含まないバーチャルオンリーの株主総会の開催が認められるのは、産業競争力強化法に基づき、一定の要件を満たし経済産業大臣と法務大臣の確認を受けた上場会社に限られています。
バーチャルオンリー株主総会は、遠隔地の株主を含む多くの株主が出席しやすくなる、物理的な会場確保が不要で運営コストの低減を図れるなどのメリットがあるとされます。
報告書では非上場会社にも実務上のニーズがあるとし、バーチャル株主総会等についての規定を会社法に設け、対象を上場会社に限定せず、より使いやすくなるような検討をすべきという方針が示されました。
出席を含むハイブリッド出席型バーチャル株主総会と比較しつつ、実施要件等が検討されています。
ことし1月の経済産業省の「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会の報告書でも、会社法上、バーチャルオンリー株主総会の開催を可能とし確認手続きを不要とすべきと提言されています。
これらの報告を踏まえ、会社法制に関する諮問について、法務省は法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会での審議をスタートさせました。
注目したい法改正の動向
- 労災保険制度の見直し
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労災保険のメリット制は、労災を起こさない事業者を優遇することによる予防効果が期待されます。一方で、特別な脆弱性をもつ労働者を雇用する努力をした事業者の保険料負担が増えたり、労災隠しを誘導する制度になっているとの指摘もあります。
厚生労働省の「労災保険制度の在り方に関する研究会」では、メリット制の在り方の検証等、労働基準法と労働者災害補償保険法の関係もふまえた見直しについて、議論が進んでいます。 - 物流事業の人材確保
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物流業界の人材確保が、喫緊の課題になっています。そのなか自民党のトラック輸送振興議員連盟は、トラック運送事業について5年ごとに許可する「更新制」を導入し、許可基準に労働者の適切な処遇を確保することを盛り込むなどの貨物自動車運送事業法の改正案をまとめました。
悪質な事業者を排除し、トラック運転手の待遇を改善して人材確保につなげることを目的としています。 - 暗号資産を規制
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金融庁は、ディスカッション・ペーパー「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」を公表しました。
ビットコインなどの暗号資産を「資金調達・事業活動型」と「非資金調達・非事業活動型」の2つに類型化して、金融商品取引法で規制する方向性を打ち出しています。 - 詐欺対策の強化
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政府の犯罪対策閣僚会議は、「国民を詐欺から守るための総合対策」を改定しました。
具体的な詐欺対策として、携帯電話不正利用防止法に基づく携帯電話の契約時の非対面の本人確認手法の厳格化、犯罪収益移転防止法の適正な履行の確保、被疑者間の通信内容等を迅速に把握するための技術的アプローチや新たな法制度の導入の検討などの方針が示されています。
出典・文責 ≫ 日本実業出版社・株式会社エヌ・ジェイ・ハイ・テック